ラテン語のイディオムについて

【目次】

1. 英文契約書におけるラテン語の起源
2. 英文契約書以外でのラテン語の使用
3. 英文契約書における表示方法
4. ラテン語の使い方

Q10. 契約書に含まれるラテン語のイディオムの使い方を教えてください

1 英文契約書におけるラテン語の起源
1066年にノルマン人によってイングランドが征服されて以降、ノルマン人の使用するフランス語及びラテン語が法律言語として使用されるようになりました。そのため現代の英文契約書においてもラテン語がしばしば使用されています。またノルマン人の征服以降、フランス語及びラテン語を使用するノルマン人と、英語を使用するイングランドのアングロサクソン族との間の意思疎通を容易にするために、同義語をペアにする表現方法がなされるようになったといわれており、その名残が現在の法律英語にも見られます。例えば、null and void「無効な」やterms and conditions「条件」などの表現です(nullやTermsがラテン語表現であるのに対し、voidやconditionsは英語表現になります)。そのように同義語を反復することによって、意味を強調するのみではなく、組み合わせる各語の微妙なニュアンスの違いを含ませることができ、法律的意味を正確に表現することができる効果があると言われています。

2 英文契約書以外におけるラテン語の使用
 このように、英文契約書を理解するためには契約書でよく使用されるラテン語などの英語以外の言語を理解しておくことも必要になります。特に、ビジネス契約で頻繁に使用される最低限のラテン語のイディオム程度を理解しておくことは、契約条件交渉を円滑に進めるためにも重要です。ラテン語の表現は二義的な解釈を許さない明確な表現ですので、こまごまとした説明を付けることなく、必要な内容を一刀両断で表現できるメリットがあります。これは契約書だけでなく、法律家が書く通常の文書の中にも見られます。

3 英文契約書における表示方法
 通常英語の中にラテン語が混じっているとすぐに分かると思いますが、ラテン語のイディオムであることをより明確にするために、斜体(イタリック体)にしたり、アンダーラインを付したりすることもあります。

以下に英文契約書で見かけることのあるラテン語の表現を紹介します。

4 ラテン語の使い方
(1)in lieu of    ~の代わりに
“in lieu of”とは、例えば、売主やライセンサーなど履行義務を負担する側が、保証、損害賠償などを規定したあとに、それらの保証、損害賠償が他の明示、黙示、法定のものであるとを問わずすべての救済方法に代わるものであるとして、本来ならば適用される他の保証を排除する場合に使われます。In lieu of に代わる他の表現としては、”exclude”、”exclusive”などがあります。また、文字通り「~の代わりに」の意味で文章の冒頭に使用されることもあります。
The foregoing warranties are in lieu of all other warranties, whether oral, written, express, implied, or statutory.
上記の保証は、口頭、書面、明示、黙示、法定の他のすべての保証に代わるものである。

(2)mutatis mutandis  準用して
契約書の前の条項で規定したことを次の事柄についても準じて適用することを示す場合に使われます。

The provisions of Article 3 hereof shall apply mutatis mutandis.
本契約書第3条の規定を準用する。

(3)bona fide   善意の、誠実な
“bona fide”は善意という意味で使用されることがあります。法律用語として善意が使用された場合は、「知らないで・不知」という意味です。

Such notice shall specify the name of the person who has made a bona fide offer to acquire the shares, the price and all o
ther terms and conditions for the operation.

同通知には、当該株式につき善意による取得の申し込みを行った人物の氏名及びその他当該取引に関する諸条件が記載されていなければならない。

また “bona fide”が「誠実な」という意味で使用されることもあり、“bona fide discussion”、“bona fide consultation”などという形で使用されます。英語ではin good faithと訳されます。次の例文は、契約に関する紛争について、訴訟や仲裁手続きに入る前に、まずは当事者間での誠実な協議によって解決を図ることを約束するものです。

The parties agree to sue their best efforts to resolve any dispute arising out of or in connection with this Agreement through bona fide consultation.

当事者は、本契約からまたは本契約に関連して生ずる紛争を誠意ある協議で解決すべく最善の努力を払うことに合意する。

(4)pari passu  同じ順位で
“pari passu”は、融資契約などにおける債権回収の場面での債権者の間の優先順位に関して、他の債権者と同順位で回収を受けることを約束するときに使用されます。このような条項はpari passu clause(パリパス条項)と呼ばれることがあります。

Each Loan Party shall ensure that at all times any unsecured and unsubordinated claims of any Lender against it under the Loan Documents rank at least pari passu with the claims of all its other unsecured and unsubordinated creditors except those creditors whose claims are mandatorily preferred by laws of general application to companies.

各融資当事者は、貸付証書に基づく融資当事者に対する貸主の無担保かつ非劣後債権は、企業に一般的に適用される法律によって強制的に優先債権とされているものを除いて、常に他のすべての融資当事者の無担保かつ非劣後債権者の債権と少なくとも同順位であるものとする。

(5)per diem  日当、一日あたり
“per diem”は名詞として使用された場合は「日当」の意味になります。英語では、“daily allowance”と訳すことができます。また「日ごとの」「一日あたり」の意味で使用されることもあります。

Consultant shall only be required to provide receipts for per diems that exceed the levels set out above.

上記記載金額を超える部分の日当についてのみ、コンサルタントは領収証の提供が必要となります。

(6)per annum  一年あたり
“per annum”は「一年あたり」「年ごとの」という意味になります。英語では“per year”と翻訳されます。

In the event that the Lessee fails to pay the rent, management fee or any other amount payable hereunder when it is due, the Lessor may require the Lessee to pay a delinquency charge on any overdue amount, calculated at the rate of 0.04% per diem (which is equivalent to 14.6% per annum).

乙が賃貸料、共益費その他の債務の支払いを遅延したときは、甲は、延滞金額に対し、日歩4銭(年利14.6パーセント相当)の割合による損害金を乙に請求することができる。

(7)pro rata  その割合に応じて
“pro rata”は「その割合に応じて」「比例して」という意味です。英語では “proportionally”や“in proportion”となります。

The new stocks shall be offered first to stockholders of the NEW Company who were the stockholders at the time of incorporation, pro rata to their respective holdings.
新株は、法人設立の時に株主であった新会社の株主に、それぞれの持ち分の割合で最初にオファーされる。

(8)inter alia   その他のものと一緒に、なかんずく、とりわけ
“inter alia”は、「その他のものと一緒に」という意味です。例えば、ある事柄が適用される状況を例示する場合に、ある事項が適用されるのがその例示された状況に限定されるものではないことを示すものです。英語では、“including, but not limited to”または“including without limitation”などと表現されます。

The Seller shall ensure that each delivery is accompanied by a delivery note which shows, inter alia, Order number, date of Order, number of packages and contents and, in the case of part delivery, the outstanding balance remaining to be delivered.

売主は、各配送に、その他のものと一緒に、注文番号、注文日、小包数および内容物、そして部分配達の場合には未配達分を示す納品書を必ず添付しなければならない。

(9)ex parte  一方的な
“ex parte”とは、「一方的な」という意味です。

The Expert, once appointed, shall have no ex-parte communications with any Party concerning the determination required hereunder. All communications between any Party and the Expert shall be conducted in writing, with copies sent simultaneously to the other Party in the same manner.

専門家は、いったん任命されると、本合意書で要求される決定に関していかなる当事者とも何ら一方的な連絡をとることはできません。 当事者と専門家との間のすべての連絡は書面で行われ、コピーは他の当事者にも同じ方法で同時に送信されなければなりません。

(10)vice versa  逆もまた同様、逆もまた真なり
“vice versa”は、「逆もまた同様」という意味です。

Words importing one gender import any other gender, words importing the singular import the plural and vice versa, and any reference to a person includes a reference to a company, authority, department or other body

一つの性別を示す語にはその他の性別も含まれる。単数を意味する語には、複数を含み、またその逆も然り。人を示したときは、会社、公共機関、省またはその他の団体も含まれる。

(11)ab initio  さかのぼって
“ab initio”は「さかのぼって」という意味です。例えば次のような遡って無効となることを規定する条項において使用されます。

Any attempted transfer of the Majority Interest or any portion thereof by Party A in violation of the terms of this Agreement shall be void ab initio.

本契約の条項に違反して、当事者Aによる過半数持分またはその一部の譲渡の試みは、最初からさかのぼって無効となります。

(12)ipso facto 事実それ自体によって、何らの手続きもなしにただちに
“ipso facto”とは、事実それ自体によって、何らの手続きもなしにただちにというほどの意味です。例えば、次のような条項はipso facto clause(ipso facto条項)と呼ばれることがあります。

This Agreement shall terminate, without notice, (i) upon the institution by or against either party of insolvency, receivership or bankruptcy proceedings or any other proceedings for the settlement of either party’s debts, (ii) upon either party making an assignment for the benefit of creditors, or (iii) upon either party’s dissolution or ceasing to do business.

本契約は次のいずれかの場合において通知なくして終了する。(i)いずれかの当事者による、またはいずれかの当事者に対する、いずれかの当事者の債務の解決のための、支払不能、管財人の選任、または破産手続の開始があった場合、(ii)いずれかの当事者が債権者のために債権譲渡を行ったとき、または(iii)いずれかの当事者の解散または事業を廃止した場合。

(13)ipso jure  法律上当然に
“by the law itself”(法律上当然に)を意味するラテン語です。

The lease of the lot shall be ipso jure transferred to the buyer simultaneously with the completion of this sales contract.

ロットのリースは、この売買契約の完了と同時に購入者に直接移転されるものとします。

(14)et al. et seq.  及びその他の者
“et al.” は “and others”(及びその他の者) を意味するラテン語です。et seq. は “and the following”(及びそれ以下) を意味するラテン語です。文献を引用するときに、文献を作成した著者が多い場合に、表示は一部の著者にとどめ、他の著者の表示を省略する場合に “et al.”が使用されます。また、 “et seq.”条文を引用表示するときに、記載された箇所以降の部分を省略するときに使用される表現です。

Smith et al., 2015, p. 34

Articles 815 et seq., 1873-1 et seq. and 883 et seq. of the Civil Code shall not apply to joint ownership of a patent application or of a patent.
民法第815条 以下,第1873条 1以下及び第883条以下は,特許出願及び特許の共有に関しては適用されない。

(15)in re  相手方のいない事件
当事者が一方しかおらず、相手方当事者のいない場合の裁判手続などの事件名を表示する場合に用いられます。例えば遺言検認、破産財産、後見人選任などに関する手続があげられます。

in re Green (Green事件)

(16)prima facie  一応の
“prima facie”とは、裁判で実質的に矛盾する証拠がない限り、事件を立証するのに十分な、裁判所に提出された証拠を意味します。 申立人が申立とおりの請求を一応証明するのに必要な証拠を提出し(一応の証拠のある事件)、反論がない場合(またはそれとは反対の証拠)、申立人の主張が認められることになります。

(17)de facto  事実上(の)
“de fact”とは、合法的な権限の有無にかかわらず、実際に存在することを意味します。 例えば、企業は、その設立に必要なすべての法的要件を不注意により完全に満たすことができなかったが、誠実に企業の権能を行使したような場合には、事実上の企業の地位を有していると言われることがあります。

(18)in camera  裁判官室で
“in camera”は「裁判官室で」を意味するラテン語です。 これは、プライバシーの確保された裁判官室での、または傍聴人や陪審員が法廷から排除された状態での審理や裁判官との協議を指します。 In camera審理は、秘密情報または機密情報を陪審員に示すか、またはそれを公の記録の一部にするかどうかについての決定を行うために用いられる場合があります。

(19)lex fori  法廷地の法
“lex fori”とは、ラテン語で法廷地の法という意味です。国際的な紛争においては、裁判所のある地の法律が適用されるかどうかということが問題となります。一般に手続きは法廷地法によるとの原則があることから、裁判所での手続きについては係属した裁判所の所在する国・地域の民事手続き法が適用されるとされ、そこで適用される実体法については、国際私法により指定された準拠法選択の基準に従って選択されることになります。

(20)lex loci contractus  契約締結地の法
“lex loci contractus”とは、ラテン語で契約締結地の法という意味です。契約の有効性を巡って紛争が生じ、その紛争を解決するために準拠すべき法としてどの国・地域の法が適用されるかが問題となった場合において、契約締結地の法が準拠法として選択されるかどうかが問題になることになります。

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