裁判管轄の合意について教えてください

裁判管轄の合意とは

裁判管轄の合意とは、どこの国で裁判を行うかについてあらかじめ当事者が合意しておくことです。民事訴訟法では、「当事者は合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。」(民事訴訟法3条の7)として、原則として、裁判管轄の合意を有効としています。国際取引においては、裁判管轄についての定めがあるのが通常ですが、管轄裁判所について意見が相違する場合に、裁判管轄をあえて定めないということもあり得ます。もし、裁判管轄についての定めのない場合には、相手方の所在地の裁判所に訴訟を提起するというのが原則です。例えば日本企業がニューヨーク州の法人を訴える場合には、ニューヨーク州の裁判所に訴訟を提起しなければなりませんし、反対にニューヨークの会社が日本企業を訴える場合には、日本の裁判所に訴訟を提起しなければなりません(このような裁判管轄を普通裁判籍といいます)。

特別裁判籍とは

裁判管轄の合意がない場合においても、被告の普通裁判籍(被告の住所地)に訴えを提起しなければならないという原則についてはいくつかの例外があります。例えば相手方当事者が日本に支店を有している場合や、相手方当事者が日本国内で不法行為を行ったような場合には、日本企業はニューヨーク州法人を日本において訴えることが可能です(このような裁判管轄を特別裁判籍といいます)。

専属的裁判管轄の合意と非専属的裁判管轄の合意とは

裁判管轄を日本の東京と定めている場合にも、それが専属的(exclusive)な裁判管轄か、非専属的(non-exclusive)な裁判管轄かが問題となり得ます。専属的裁判管轄は、当事者の合意によってその裁判所のみが管轄を有することになりますので、その他の裁判所に提起された訴訟については、相手方の申立により却下されることになります。一方、非専属的裁判管轄の場合には、他の裁判所の管轄を一切排除するものではありません。日本の東京が合意による裁判管轄とされている場合であっても、非専属的合意管轄の場合は必ずしも東京の裁判所に訴訟を提起しなければならないというわけではなく、相手方当事者は、紛争とニューヨーク州の関係性を主張することで(例えば不法行為がニューヨーク州で行われ、日本企業がニューヨーク州で継続して事業活動を営んでいると主張することで)、ニューヨーク州の裁判所に訴訟を提起することも可能になります。

裁判管轄の合意に関する契約条項について

東京地裁が独占的裁判管轄権を有する場合の規定は次のようになります。契約上の請求だけでなく、不法行為やその他の構成による請求についても東京地裁が独占的管轄権を有するよう記載しておくのが好ましいと考えられます。但し不法行為の裁判管轄については、合意管轄がある場合でも争われる可能性があります。

Any dispute arising out of or in connection with this Agreement or the transactions contemplated by this Agreement (including any tort and other non-contract claims) shall be subject to the exclusive jurisdiction of the Tokyo District Court.
(訳文)
本契約及び本契約に基づく取引により生じ、又はこれらに関連する全ての紛争(不法行為及びその他の契約法以外の請求を含む)については、東京地方裁判所の専属的管轄に服するものとする。

裁判管轄について詳細な記載をする契約条項について

Each of the parties hereto hereby submits to the exclusive jurisdiction of the United States District Court for the Southern District of New York and to any New York state court sitting in New York County for the purposes of all legal proceedings arising out of or relating to this Agreement or the transactions contemplated hereby. Each party irrevocably consents to the service of any and all process in any legal proceeding by the mailing, certified mail with proof of delivery, or delivery by overnight courier of copies of such process to such party at its address set forth herein. Each of the parties hereto irrevocably waives, to the fullest extent permitted by applicable law, any objection that it may now or hereafter have to the laying of the venue of any such proceeding brought in such a court and any claim that any such proceeding brought in such a court has been brought in an inconvenient forum. The parties agree that a final judgment in any such action or proceeding shall be conclusive and may be enforced in other jurisdictions by suit on the judgment or in any other manner provided by law. To the extent that any party has or hereafter may acquire any immunity from jurisdiction of any court or from any legal process (whether through service or notice, attachment prior to judgment, attachment in aid of execution, execution or otherwise) with respect to itself or its property, the such party hereby irrevocably waives such immunity in respect of its obligations under this Agreement
(訳文)
本契約の各当事者は、本契約書により発生し、または本契約書に関連する全ての法的手続きについて、Westchester CountyにあるNew York州裁判所のUnited States District Court for the Southern District of New Yorkの専属的裁判管轄に服する。いずれの当事者も、全ての法的手続きにおけるあらゆる送達について、配達証明郵便による送達又は本契約書に定められた住所宛てに送達状の写しをオーバーナイト・クーリエによって送達することについて、撤回不可能な形で同意する。いずれの当事者も、法令によって認められた最大範囲において、かかる裁判所に係属する手続きを移送すべきであるとの異議の申し立てを行う権利を放棄し、またかかる裁判所に係属する手続きが適切でない裁判所への申立であるとの主張する権利を放棄する。かかる裁判または訴訟手続きにおける最終判決は、最終的なものであり、判決承認手続きまたは法令によって定められた他の方法により、他の管轄地域においても執行することができる。いずれかの当事者が、自己又はその財産に関して、現在または将来において、いずれかの裁判所またはその訴訟手続きから免責された場合(送達、判決前の差押え、訴訟共助による差押え、執行その他にかかわらない)には、かかる当事者は、本契約書の義務については、かかる免責を取消不能な形で放棄したものとする。

第三国を管轄裁判所とする合意とは

裁判管轄は当事者の何れかの国の裁判所だけでなく、全くの第三国を管轄とすることも可能です。例えば、日本法人とニューヨーク州の法人の売買契約で、フランスのパリを管轄とするというような場合です。第三国を管轄裁判所と定める場合には、当事者双方にとってより中立的で公平であると考えることもできますが、反対にいずれの当事者もよく知らない国で裁判を行わなければならなくなるという負担を負うことになり、当事者双方にとって好ましくないという事態も想定されます。

相手方の所在地の裁判所を専属的合意管轄裁判所とする場合

また、裁判管轄は一つに限定されるわけではありませんので、相手方当事者の所在地の裁判所を管轄裁判所とするということもあります。この場合、日本法人がニューヨーク州法人を訴える場合には、ニューヨーク州の裁判所に訴訟を提起しなければならず、反対に、ニューヨーク州の法人が日本企業を訴える場合には、日本の裁判所に訴訟を提起しなければなりません。

The parties agree that, in case party A sues party B, the Tokyo District Court of Japan shall have an exclusive jurisdiction, and in case Party B sues Party A, the United States District Court for the Southern District of New York shall have an exclusive jurisdiction.
(訳文)
当事者Aが当事者Bを訴える場合は日本の東京地方裁判所が専属的裁判管轄を有し、当事者Bが当事者Aを訴える場合は、ニューヨーク州南部地方連邦地方裁判所が専属的裁判管轄を有することについて当事者は合意する。

被告の所在地の裁判所を潜像的合意管轄裁判所とする場合

また、契約書の条項の中では、どこの裁判所が専属的合意管轄を有するかということを明確にせずに、相手方当事者の所在地の地方裁判所が専属的合意管轄を有すると記載することも考えられます。

Any dispute arising out of or in connection with this Agreement or the transactions contemplated by this Agreement, including any tort and other non-contract claims, shall be subject to the exclusive jurisdiction of the local court where the defendant’s head office is located.
(訳文)
本契約及び本契約に基づく取引により生じ、又はこれらに関連する全ての紛争(不法行為及びその他の契約法以外の請求を含む)については、被告の主たる事務所の所在地の地方裁判所が専属的合意管轄を有するものとする。

フォーラムショッピングと裁判管轄の合意

管轄裁判所について当事者間での意見の相違がある場合に、上記のとおり裁判管轄を定めないということも一つの方法ではありますが、裁判管轄を定めていない場合に、どこの裁判所に訴えられるか予測がつかないというデメリットも考えられます。例えば、アメリカのテキサスの裁判所に訴訟を提起された場合に、テキサスの裁判所は原告に有利と言われていますので、日本企業にとっては不利な訴訟を強いられる可能性もあります。このようなフォーラムショッピング(原告当事者が自分に有利な裁判所を探してそこに訴訟を提起すること)を防ぐ意味でも、裁判管轄を定めておくことにメリットがあると言えます。

管轄不存在による却下申し立て(Motion for Dismissal)

管轄が存在しない地の裁判所に訴訟が提起された場合、被告は管轄不存在による訴訟却下の申し立てを行う必要があります。訴訟却下の申し立てをしないで答弁してしまうと応訴管轄が生じることになります。裁判を起こされた国の裁判所に管轄がないという場合の他、仲裁条項が定められているので、紛争は仲裁によって解決されるべきで、訴訟で解決されるべきでないというときにも管轄違背による訴訟却下の申立てをすることになります。被告から裁判所に対して提出される管轄が存在しないことによる訴え却下の申し立てをMotion for Dismissal by lack of jurisdiction(裁判管轄が存在しないことを理由とする訴訟却下の申し立て)といいます。日本企業がアメリカに訴えられた場合は、ほとんどの場合においてまずMotion for Dismissal by lack of jurisdiction(裁判管轄が存在しないことを理由とする訴訟却下の申し立て)を行うことが可能かどうかを検討することになります。

管轄についての定めがない場合

国際取引契約書の中で裁判管轄についての定めがない場合、どこの国の裁判所に裁判管轄があるかについては、訴訟を提起された国の法令によって判断されます。例えば、日本の裁判所に裁判が提起された場合、当該事件について日本の裁判所が裁判管轄を有するかどうかは、日本の民事訴訟法の規定に基づき、日本の裁判所が判断します。

日本の民事訴訟法における国際裁判管轄の規定

日本の民事訴訟法では、合意管轄や応訴管轄を認めていますので、契約書において合意がなされた場合や、当事者が管轄を争わない場合には、その当事者の意思に従って管轄が認められることになります。一方、管轄に関する合意がない場合に、どの国の裁判所が管轄を有するかについては、民事訴訟法の中に、以下の定めがなされています。

被告の住所地により生じる管轄

人に対する訴訟については、①その人の住所が日本国内にあるとき、②住所がない場合又は住所が知れない場合には、その居所(一時的に住んでいる場所)が日本国内にあるとき、③居所がない場合又は居所が知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたときには、日本国内の裁判所に管轄が認められます(3条の3第1項)。

法人に対する裁判管轄

法人の場合には、①主たる事務所又は営業所が日本国内にある場合、②事務所若しくは営業所がない場合又はその所在が知れない場合には代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるときには、日本の裁判所が管轄権を有します(3条の2第3項)。

業務に関する訴えの管轄

日本国内に事業所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するものは日本国内で訴えを提起することができます(3条の3第4号)。また、日本において事業を行う者に対する訴えについては、その訴えがその者の日本における業務に関するものである場合には日本で訴えを提起することができます(3条の3第5号)。

契約上の訴えに関する管轄

債務の履行地が日本国内にある場合には、日本国内で訴えを提起できます。また、契約において選択された法律によればその履行地が日本国内になる場合にも日本国内で訴えを提起できます(3条の3第1号)。

消費者契約に関する管轄

消費者から事業者に対する訴えは、訴えの提起時に消費者の住所が日本国内にあるとき、又は契約締結時に消費者の住所が日本にあるときには、日本の裁判所に対して訴えを提起できます(3条の4第1項)。これに対して、事業者から日本国内の消費者に対する訴えについては、被告住所地主義の規定が適用され、原則として被告の住所地の裁判所に訴えを提起しなければなりません(3条の2)。

労働契約に関する管轄

労働者がその雇い主を訴える場合、労働を提供する場所が日本にある場合には、日本の裁判所に訴えを提起することができます(3条の4第2項)。なお、採用直後などの労働の提供地が定まっていない場合には、労働者を採用した事業所が日本にある場合には、日本の裁判所で訴訟をすることができます(3条の4第2項)。これに対して、雇用主から日本国内の労働者に対する訴えについては、被告住所地主義の規定が適用され、原則として被告の住所地である日本の裁判所に訴えを提起しなければなりません(民訴3条の2)

財産の所在地

請求の目的が日本国内にあるときには、日本に裁判管轄が認められます(3条の3第3号)。
財産権上の訴えで金銭の支払を請求する場合には、差押えができる財産が日本国内にある場合には日本に管轄が認められます(3条の3第3号)。不動産については、その不動産が日本にある場合には、日本国内で訴訟が可能です(3条の3第11号)。

不法行為

不法行為があった地が日本国内にあるときに日本の裁判所に管轄が認められます(3条の3第8号)。ただし、外国で加害行為が行われて、その結果だけが日本で発生した場合には、それが通常予見できないものについては、日本の管轄は認められません(3条の3第8号)。

特別な事情による訴えの却下と専属的合意管轄

専属的な管轄の合意以外には、特別の事情によって訴えが却下される可能性があるため(3条の9)、管轄合意によって、日本に管轄が必ず認められるようにするためには、その合意を専属的なもの(日本の裁判所にのみ訴えを適することができる旨の合意)としておく必要があります。なお、将来に生じる消費者契約に関する紛争及び労働契約に関する紛争については、以下のような特則があり、その要件を満たさない限り、専属的合意管轄の効力が認められません。

消費者契約に関する紛争の特則(3条の7第5項)

消費者契約について管轄の合意がない場合は、上記の通り消費者の住所地の裁判所が裁判管轄を有することになります。また、当事者間に管轄について合意がある場合であっても、以下のいずれかの要件を満たさない限り、当該合意は無効とされます。その結果、事前に裁判管轄についての合意をしている場合であっても、訴訟提起の時において消費者の同意がない場合には、消費者が住所を有している国の裁判所に訴訟を提起しなければならないことになります。
①事業者と消費者が、消費者契約締結の時において、消費者が住所を有している国の裁判所に訴えを適することができる旨の合意をするとき。ただし、この合意は専属的な合意であっても付加的な合意とされます。(1号)。
②消費者が国際裁判管轄の合意に基づき合意された国に裁判所に訴えを提起した場合、又は事業者が訴えを提起した場合に消費者が国際裁判管轄の合意を援用したとき(2号)。

労働関係に関する紛争の特則

労働契約について合意管轄がない場合は、上記の通り労務の提供がなされた地の裁判所が裁判管轄を有することになります。また、当事者間に管轄についての合意がある場合であっても、以下のいずれかの要件を満たさない限り、当該合意は無効とされます。
①労働契約終了時の合意であって、その時の労働提供地の国の裁判所に訴えを提起できるとの合意をするとき。ただし、この合意は専属的な合意であっても付加的な合意とされます。(1号)。
②労働者が国際裁判管轄の合意に基づき合意された国に裁判所に訴えを提起した場合、又は雇い主が訴えを提起した場合に労働者が国際裁判管轄の合意を援用したとき(2号)。

特別な事情による訴えの却下

当事者間の合意により日本に裁判管轄が認められる場合でも、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、当事者の衡平が害されるか、適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる場合には、訴えの却下ができます(3条の9)。その結果、当事者間の合意により日本の裁判所に管轄が認められる場合でも、外国の当事者は民事訴訟法3条の9を根拠にして、日本の裁判所の管轄が不公平であるとして争うことができます。ただし、専属的合意管轄の場合には、訴えは却下されませんので、日本の裁判所を専属的合意管轄として定めている場合は、民事訴訟法3条の9を理由に訴えの却下の申し出を行うことはできなくなります。

管轄原因の優先関係

管轄原因が複数認められた場合に、その優劣については次の順序になります。第1に、法律上専属的な管轄が定められている場合は、その専属管轄が優先されます(3条の10)。法律上の専属的管轄がない場合において、専属的な管轄の合意があった場合には、専属的管轄の合意は法律により認められた管轄原因に優先します。法律上の管轄原因と、非専属的管轄合意がある場合には、それらの間に優先関係はなく、いずれかによって日本に管轄が認められれば、日本の裁判所に訴えを提起することができます。

通則法による準拠法の決定

なお、どこの国の法律が適用されるかという準拠法の問題については、民事訴訟法の規定ではなく、「法の適用に関する通則法」(「通則法」)によって判断されます。 

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