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国際詐欺と外国企業の調査

国際詐欺

弁護士の仕事をしていると、詐欺の被害にあった依頼者からの相談を受けることも多くありますし、取引の相談に来られた依頼者の話を聞くと、その取引は詐欺ではないかと思われる事例も多くあります。最近相談に来られた事例の中で、私どもが明確に詐欺であると判断した事例もいくつかあります。近年の詐欺のパターン(国際取引での詐欺のパターン)は大きく分けて2つのパターンに分かれますので、その内容を紹介いたします。

通常詐欺は、相手方当事者から金銭を不正に取得することを考えていますので、詐欺を行う当事者としては、相手方当事者から自分の口座に金銭を振り込ませる必要があります。当然ながら、詐欺師が私はとても信用のおける人間ですので、こちらの口座にお金を振込んでくださいと言っても誰も振込む人はいません。私どもの経験からすると、国際的詐欺の多くのパターンは、反対に、「お金をお支払したいので受け取ってくれますか。」というように相手方当事者に有利な話を持ち込むことから始まります。

当然身も知らない他人、まして外国人からお金を振り込むと言われても、誰も怖くてそのようなお金を受け取ることはできません。しかし、一定の取引を行いたいのですが、私どもと取引をしてくれませんか、という形で提案がなされた場合には、そのような詐欺取引に巻き込まれることもあり得ないわけではありません。もし一見のお客から、当方にとって極めて有利な取引条件が提示された場合には、何がしかの問題があるものと考えるのが詐欺の被害を避けるために重要です。

私どもがかかわった半分くらいの案件は、海外から20億円ないし30億円の融資を行いますとの提案をしてくるパターンです。例えば太陽光発電、宇宙衛星、ドローンなど最先端の事業を行っている会社に対してその事業に興味があるので、20億円の出資をしたいとの申し出をしてくるパターンです。金銭の貸し付け契約が多いですが、株式の払い込みの形をとることもあります。

小切手を使った国際詐欺のパターン

詐欺の第一のパターンは、例えば1億円の額面の小切手が送られてきて、「2000万円はあなたの手数料ですので、受領してください。残りの8000万円は海外のどこどこの口座に振り込んでください。」というパターンです。詐欺の被害者は、1億円の小切手が送られて来て、その小切手を取り立てのために銀行に持ち込むと銀行から1億円の支払いがなされるので、まさか詐欺にあったと考えず、2000万円ももうかったと喜びながら外国の口座に8000万円を振り込みます。ところが、その後小切手が資金不足で不渡りとなり、銀行から被害者に対して1億円を返しなさいという請求がなされることになります。その時点で初めて詐欺にかかったことが分かるわけですが、既に海外の取引先とは連絡がつかない状態になっており、海外の口座も閉鎖されて加害者を発見するのは極めて困難となります。被害者としては、自分も騙されたのだから、2000万円は銀行に返すとしても、残りの8000万円は返せないと言いたいところですが、銀行取引約定では、不渡りになった場合取り立てを行った当事者は銀行への返済が義務付けられていますので、訴訟になっても確実に敗訴することになります(もちろん小切手が見かけ上も明らかに偽造であるような場合には銀行にも落ち度があるとして別の判断もあり得るかもしれませんが、通常小切手自体は明らかに偽造というものではなく、単に残高不足ですので、このような抗弁は成り立ちません)。

手数料やサンプル商品を取り込む詐欺

詐欺の第2のパターンは、外国の当事者から、「商品を購入したいのですが、前金を支払います。」という形で取引を持ち込まれるものです。当然真正な取引もありますので、第1のパターンと異なり、詐欺かどうかの判断はかなり微妙になってきます。私どもの事務所にもこのような取引を行ってもいいかどうかの相談を受けることが多くありますが、詐欺かどうか(仮に詐欺でないとしても取引を行うべきかどうか)については、いくつかの判断要素があります。

詐欺の判断要素

第1に、当方にとって通常の取引以上に極めて有利な条件の提示がある場合には、詐欺である可能性が高いと判断します。例えば、日本と極めてなじみの薄い外国の企業から、「御社の商品を買いたいので至急商品を送ってください。3億円を前金で支払います。」という提示があった場合には極めて要注意であると考えます。通常国際取引では、商品の引渡しと代金の支払いは同時履行が原則ですので、お金だけ先に送ってくる(しかもこれまでに取引をしたこともない相手方から)というのは、極めて不自然です。

第2に、相手方当事者が取引の内容に関心を有しているかどうかが重要な判断要素となります。例えば、「インターネットで見つけた御社の商品が気にいったので、至急3億円分の商品を送ってください。代金はすぐに支払います(あるいは代金は前金で支払います)。」という内容の提案があり、簡単な契約書が送られてくることがあります。この場合、契約書の内容からして、代金の支払いについては詳細な規定があるにもかかわらず、商品についてどのようなスペックであり、納期がいつで、代金がいくらで、ということがほとんど記載されていないような場合があります。私どもから契約書を拝見させていただくと、相手方当事者は商品の内容にはほとんど関心を有しておらず、やたらと代金の支払いのことのみ詳細に書いてあったりします。相手方当事者は、商品の購入が目的ですので、商品について詳細な協議がないということは、何かおかしいと考えなければなりません。

第3に、相手方当事者から送られてきた契約書の内容が極めて不正確な場合です。通常英文の契約書になりますが、スペルミスや文法上の間違い、定義規定の不統一などがいたるところにみられる契約書が送られてきた場合には、相手方当事者が取引を行うだけの信用のある会社かどうか、本当にそのような契約書を用いて取引をするつもりがあるのかどうかなどを疑わなければなりません。もちろん、英文の契約書ですので、その適否を判断するためには、多少英語が読める程度の理解力では足りず、契約書の内容が完全に理解され、通常の契約書とどうように違うのか、なぜ相手方がそのような間違いを犯したのかが判断できる程度の英語力を必要とします。

弁護士報酬や契約書作成費用を要求するパターン

以上のように外国企業との取引を開始するにあたって詐欺かどうかを判断するためには、いくつかの判断基準がありますが、相手方当事者はどのようにして日本企業から金銭を取ろうとしているのかを考える必要があります。上記のように、20億円の金銭の貸し付けをしますとか、30億円の出資を行いますという形で提案されることが多くあります。このような場合、私どもで相談を受ける依頼者の企業でも、「相手方がお金を払うといっているので、詐欺ということはないのではないですか。」「こちらがお金を払うわけではないので、取引をしても問題ないのではないですか。」ということをよく聞かれます。

しかし、最近多くみられる詐欺については一定のパターンがあり、上記のように日本企業にとって極めて有利な条件を持ちかけ、日本企業をその気にさせた上で、「契約書作成のために、弁護士報酬が1000万円かかるので、まずそのお金を振り込んでください。」「今回の取引については政府の許可が必要ですので、許可を取得するために政府高官に支払う賄賂として500万円必要です。」「金融機関に特別の口座を開設するために300万円をまず振込んでください。」というように様々な名目で金銭を要求してくることになります。最初は少額の要求であっても、何度も何度も繰り返し要求され、その間に手数料名目で極めて高額のお金を振り込まされるというのは典型的なパターンです。

サイバー詐欺の事例

最近はサイバー詐欺の事例が著しく増えています。JALなどの大手企業が詐欺にあったという例も報告されています。サイバー詐欺は、詐欺師が会社の経理担当者のパソコンに不正アクセスを行い、毎日のメールのやり取りなどを確認しています。1か月くらい取引内容を把握した後に、取引先との間である程度まとまった支払いがあるメールを確認し、経理担当者になり代わって取引先に支払催促のメールを送り、詐欺師の口座に振り込みをさせるというものです。取引相手は、これまでと同じ人の名前で請求が来て、そのメールアドレスも従前の経理担当者と非常に似ているので、つい本物の請求書であると誤解して詐欺師の口座に振り込んでしまいます。サイバー犯罪に巻き込まれた場合は、直ちに警察に通報し、銀行の取引口座を差し止めるなどして、回収が可能かどうかを確認する必要があります。また、アメリカの銀行などでは、サイバー詐欺の場合に一定の条件のもとに保険金の支払いを受けられることもあります。

法律事務所に相談する必要性

もし、外国企業と取引を開始するにあたって、何かおかしいと感じる場合には、是非国際取引を専門とする弁護士などにご相談いただければと思います。多少英語に自信があるという人も多くいますが、契約書はある種特殊な英語ですので、相当慣れた人でないと、その真意まで理解するのは困難です。なまじっか英語に自信のある人の場合、細かな条件のところばかりに目が行き、ああでもない、こうでもないという議論をしている人がいますが、肝心のところを見落としていることも多くみられます。まずはどのような取引を行おうとしているのか、取引の基本的骨格がきちんと定められているのかどうかなど、大きな観点から契約書を見ていく必要があると思われます。

外国会社の調査

日本企業同士で契約を締結する場合でも、初めて取引を行う相手方であれば、信用調査機関の調査結果を得たり、インターネットで調べたり、法務局から商業登記簿謄本を取り寄せたり、取引先から風評を聞いたりして、相手方当事者がどのような会社であるのか調査するのが通常です。このような調査が不十分な場合には、相手方が全く信用力のない会社であるために倒産によって売掛金の回収ができなくなったり、場合によっては取り込み詐欺の被害に遭うことも想定されます。国際取引を行う場合には、一層相手方の調査が必要になってきます。日本企業が初めて海外の取引先と取引を行う場合には、現地のコンサルタントや取引先からの紹介を受けたり、相手方の代表者と飲食をしながら話をしたりして、相手方がどのような会社であるのかを調査するのが通常です。場合によっては工場見学を行ったり、先方の役員、従業員から話を聞くことも重要になってきます。

国際的調査機関

日本の場合、帝国データバンクなどの有名な調査機関がありますが、国際的にもダンレポートのような調査会社がありますので、そのような調査会社から財務情報や取引履歴等の情報を入手することも考えられます。最近では、証券取引所規則により外国人投資家が誰であるかを明確にし、反社に該当しないことを証明する必要があることから、外国人や外国会社の調査を専門とする会社も現れています。

登録情報の調査

通常、会社については設立された場所において法人登記がなされています。現地の弁護士を通じて登記情報を入手することも有益です。アメリカの場合、Secretary of Stateの登録情報をだれでも見ることができます。イギリスの場合も、会社の登録情報はインターネットで入手可能であるほか、解散などの情報については裁判所で開示されている情報を入手することが可能です。これらの情報取得については、当事務所の関係のある現地事務所を通じて行うことが多くあります。

与信に関するリスク

しかしながら、世界的な有名企業を相手にするような場合を除き、相手方当事者の信用力について確信が持てるような情報が本当に入手できるのかはかなり曖昧といえます。国際取引はリスクが付き物だからということで、相手方当事者の信用力について十分な調査を行わないまま取引を始めることは極めて危険といえます。また、相手方がA会社の名刺を渡し、A会社のネームプレートのついたオフイスの会議室で会議を行ったからと言って本当に相手方がA会社の社員であると確認できたと言えるかという疑問も存在します。実際にも別人の名刺を渡したり、会社の社員でないものが会社の名刺を利用していたりして、詐欺の被害に会うという事例も多く見受けられるところです。

契約当事者の検討

このように取引の開始にあたって相手方当事者の確認は極めて重要な事柄であり、これをおろそかにすることによって多額の損害を被ることも多く発生しているところです。もしどうしても相手方当事者の信用調査ができない場合には、次善の策として、取引の間に別の会社に入ってもらい、その会社と取引をするということも考えられます。例えば、海外のA会社と取引を行うつもりであるが、A会社の財務内容がよくわからない場合に、現地に所在するX会社(日本法人の子会社)に商品を販売し、X会社からA会社に商品を販売してもらうということもあり得ます。

同時履行の原則

また、日本企業同士の取引では、末締め翌月末払いの取引が多くありますが、外国企業との取引では注意が必要になります。第一に末締め、翌月末払いというのは、その間(最大60日間)代金の支払いを待つということですので、相手方当事者に対して与信を与えるということになります。しかしその間に相手方当事者が倒産する可能性もありますし、紛争が生じて代金を支払ってくれなくなる可能性もあります。また、与信を与えるということは、交渉上相手方当事者の立場を有利にする(こちらは代金の支払いをしてもらえるかどうかわからないので、交渉上強気に出られなくなってしまうなど)ことになりますので、極めて危険な状態にあるということも言えます。外国企業との取引においては、同時履行が原則ですので、商品を引き渡す場合には、必ず代金を同時に受領する必要があります。貿易の場合には、同時履行が難しいですが、その場合には、相手方の所在地の信用のある金融機関が発行したLC(Letter of Credit)を受領しておくことも考えられます。

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