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贈収賄禁止条項

Anti-Bribery

贈収賄とは

公務員がその職務に関して金銭その他の経済的利益(賄賂)を受けることを収賄といい、賄賂を受けた公務員については、犯罪として、刑法で処罰されることになっています。収賄罪は身分犯であり、公務員という身分を有する人についてのみ犯罪が成立します(身分なき共犯という例外はあります)。これに対し、公務員に対して賄賂を提供することは贈賄といい、贈賄罪の規定により処罰されることになります。贈賄罪は、公務員に限られず誰にでも成立する犯罪です。収賄と贈賄を合わせて「贈収賄」と呼ばれることがあります。

日本の公務員に対する贈賄行為

日本の公務員に対して賄賂を提供する行為は贈賄罪に該当し、日本の刑法(Criminal Code)で処罰されることになります(刑法198条)。日本の公務員に対して賄賂の提供がなされる限り、贈賄側が日本人や日本法人に限られるわけではありません。外国人や外国法人も、日本の公務員に賄賂を提供した場合は、日本の刑法で処罰されることになります。

外国の公務員に対する贈賄行為

一方、外国の公務員に対する賄賂の提供については、日本の刑法の適用外になります。しかしながら、外国の公務員に対して賄賂の提供を行うことも、不公正な取引方法によって利益を得ようとする行為と言えますので、不正競争防止法(Unfair Competition Prevention Act)で禁止されています。不正競争防止法18条1項は次の通り規定しています。

「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。」

その結果、日本人や日本法人が外国の公務員に対して賄賂を提供する場合は、日本の不正競争防止法で処罰されることになります。また、外国人や外国法人が、日本国内において、外国の公務員に賄賂を提供する場合も不正競争防止法の適用対象となります。

しかし、外国人や外国法人が日本国外において、外国の公務員に対して賄賂の提供を行う場合は不正競争防止法の適用対象とはなりません。

外国の公務員に対する贈賄行為の問題点

日本人や日本法人が外国の公務員に対して贈賄を行う場合は、上記の通り、日本の不正競争防止法や現地の刑法などで処罰されることが明らかです。最近は贈収賄の取り締まりも厳しくなっていますので、日本法人が直接外国の公務員に対して賄賂を提供する行為も少なくなっていると思います。しかし、日本法人から直接外国の公務員に対して賄賂が提供されるのではなく、現地にある日本法人の代理人やエージェント、コンサルタントなどが外国の公務員に対して賄賂を提供する場合であっても、日本法人の取引に関連して賄賂の提供がなされたと見なされる場合は、日本法人も外国の代理人、エージェント、コンサルタントなどとともに処罰される可能性があります。

FCPA(Foreign Corrupt Practices Act)(海外腐敗行為防止法)

アメリカのFCPA(Foreign Corrupt Practices Act)(海外腐敗行為防止法)は、反贈収賄規定及び会計規定から構成される米国連邦法です。Corruptは汚職という意味になります。米国連邦法ではあるものの、FCPAの反贈収賄規定は、その取引の内容や行為者である法人がアメリカと一定の関係がある限り、アメリカ国外で行われた贈収賄行為についても適用があるとされています(域外適用)。また、FCPAでは、代理人やエージェント、コンサルタントなどが行った行為であっても、本人の利益のために行ったと言える場合は、本人が処罰される(罰金が科せられる)ことが明確になっています。

代理人、エージェント、コンサルタントによる贈収賄を禁止する必要性

上記の通り、アメリカのFCPA(Foreign Corrupt Practices Act)(海外腐敗行為防止法)は、アメリカと一定の関係が認められる場合には、日本法人がアメリカ以外で贈賄行為を行った場合にも適用があることになります。また、日本法人の代理人やエージェント、コンサルタントなどが、贈賄行為を行った場合であっても、日本法人の利益のために行ったとみられる場合は、日本法人が処罰されることになります。従って、日本法人がシンガポール法人に販売委託を行い、シンガポール法人が現地の公務員に賄賂を提供したような場合であってもアメリカのFCPAが適用される可能性があるということになります。その結果、日本法人が、外国法人(アメリカ法人に限らない)との間において代理店契約、販売店契約、エージェント契約、コンサルタント契約、業務委託契約等を行う場合は、相手方当事者が贈収賄行為を行わないということを契約書の中で確認してもらう必要があることになります。

United Kingdom Bribery Act(英国贈収賄防止法)

アメリカのFCPA(Foreign Corrupt Practices Act)(海外腐敗行為防止法)と同様の法律としては、イギリスのBribery Actがあります。イギリスのBribery ActについてもFCPAと同様に域外適用についての定めがなされています。

贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)の記載内容

以上から、日本法人が外国法人や外国人との間において代理店契約、販売店契約、エージェント契約、コンサルタント契約、業務委託契約等を締結する場合には、相手方当事者が、当該取引に関連して外国の公務員に対して賄賂を提供することがないよう販売代理店契約書、エージェント契約書、コンサルタント契約書、業務委託契約書(Service Agreement)等の契約書の中で規定しておくことが重要と言えます。贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)の記載事項については、このように記載しなければならないという明確な定義はありません。賄賂を禁止する標準的な契約条項のサンプルは下記に示すようにOECDがいろいろなパターンを定めています。贈賄禁止条項も多くはOECDの提供するサンプルを基に、当事者のニーズに応じて一定のカスタマイズを行って作成する形になるかと思います。

贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)のサンプル1

次の条項は、相手方当事者に対して贈賄行為を行っておらず、今後も行わないこと、及び贈賄行為を防止するための適切な措置を講じたこと(例えば社内ルールを整備し、取引の相手方に対して周知しているなど)の確認を求める規定です。極めて一般的な内容を規定している規定になります。

Each Party hereby undertakes that, at the date of the entering into force of the Contract, itself, its directors, officers or employees have not offered, promised, given, authorized, solicited or accepted any undue pecuniary or other advantage of any kind (or implied that they will or might do any such thing at any time in the future) in any way connected with the Contract and that it has taken reasonable measures to prevent subcontractors, agents or any other third parties, subject to its control or determining influence, from doing so.

(訳)本契約書の当事者は、本契約締結時点で、会社、その取締役、役員、従業員が本契約に関連して不正な金銭その他の経済的利益を提供し、約束し、供与し、授与し、勧誘し、承諾していないこと(または将来これらを行うこと)、及び下請、エージェント、又はその支配下にあり若しくは影響力を行使し得るその他の第三者がかかる行為を行わないよう合理的な手段を講じたことを確認する。

*undertakeは、「約束する」という意味です。
*undueは、「正当でない」という意味です。
*pecuniaryは、「金銭的な」という意味です。

贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)のサンプル2

次の条項は、贈賄行為を禁止するためにICCの反贈収賄規則に従っていることの確認を求める内容です。ICCは国際商工会議所(International Chamber of Commerce)を意味しています。下記の規定は、各当事者の取引先に対して贈収賄を行わないことを約束させるだけでなく、贈収賄を禁止するための合理的な手段を講じていること(take reasonable measure)まで求める内容となっています。

The Parties agree that, at all time in connection with and throughout the course of the Contract and thereafter, they will comply with and that they will take reasonable measures to ensure that their subcontractors, agents or other third parties, subject to their control or determining influence, will comply with Part I of the ICC Rules on Combating Corruption 2011, which is hereby incorporated by reference into the Contract, as if written out in the Contract in full.

(訳)当事者は、本契約の期間中、自ら、及びその下請け、エージェント、及び自己の管理下にあり又は影響力を行使し得るその他の第三者が、本契約書に記載されたのと同じように、本契約書に組み込まれる2011年度のICCの反収賄規則第1章に従い、それに従うよう合理的な手段を講じることに合意する。

*comply withは、「法令を遵守する」という意味です。
*subcontractorは、「下請け業者」という意味です。

贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)のサンプル3

下記の条項では、政府機関の役職員(Governmental Official)に対して、現金の支払いを約束してはならないというように規定し、贈賄行為(公務員への金銭その他の経済的利益の供与)を禁止する旨を明確にしています。

Each Party agrees, on behalf of itself, its officers, directors and employees and on behalf of its Affiliates, agents, representatives, consultants and subcontractors hired in connection with the subject matter of this Agreement (together with such Party, the “Party Representatives”) that for the performance of its obligations hereunder, the Party Representatives shall not directly or indirectly pay, offer or promise to pay, or authorize the payment of any money, or give, offer or promise to give, or authorize the giving of anything else of value, to any Government Official in order to influence official action.

(訳)いずれの当事者も、それ自身、その役員、取締役、従業員、関連会社、エージェント、代表、コンンサルタント、本契約のために雇われた請負人(これらを合わせて「代表者」という。)が、直接または間接に、本契約の履行に際して、政府の行動に影響を与える公務員に、現金の支払の約束をし、又は経済的価値あるものの支払いを約束してはならない。

贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)のサンプル4

下記のサンプルでは、アメリカのFCPAやイギリスの賄賂防止法、その他の法律に違反してはならないことを定めており、対象となる法律を明確にしています。

Party Representatives shall not, directly or indirectly, solicit, receive or agree to accept any payment of money or anything else of value in violation of the U.S. Foreign Corrupt Practices Act, as amended, the UK Bribery Act 2010, as amended, or any other applicable anti-corruption laws and laws for the prevention of fraud, racketeering, money laundering or terrorism.

(訳)当事者の代表者は、直接または間接に、アメリカの収賄法、イギリスの2010年賄賂防止法、その他の詐欺、マネーロンダリング、テロリズムを防止するための法律に違反してお金やその他の経済的価値を要求し、受領し、支払を約束してはならない。

贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)のサンプル5

次のサンプルでは、(1)禁止の対象となる行為所が、当事者だけでなく、その関連会社、子会社、エージェントなども含むことを明確にし、(2)禁止行為の対象となる法令が何かを明確にし、(3)具体的な禁止行為(贈賄行為)を例示列挙して記載しています。また、当事者が贈収賄に関する政府の調査に応じることを義務付けています。

None of the Company or any of its Subsidiaries or any of their respective directors, officers, employees or, to the Company’s Knowledge, agents or any other Person acting on their behalf has directly or indirectly made any bribes, rebates, payoffs, influence payments, kickbacks, illegal payments, illegal political contributions, or other payments, in the form of cash, gifts, or otherwise, or taken any other action, in violation of the Foreign Corrupt Practices Act of 1977, the UK Bribery Act of 2010 or any other anti-bribery or anti-corruption Law (collectively, the “Anti-Bribery Laws”). Neither the Company nor any of its Subsidiaries is or has been the subject of any investigation or inquiry by any Governmental Body with respect to potential violations of Anti-Bribery Laws.

(訳)いずれの当事者、その子会社、関連会社、取締役、役員、従業員も、会社の知る限り、エージェント、又は彼らのために行為するその他の第三者も、1977年の海外収益移転防止法(FCPA)、2010年の英国収賄防止法、その他の反収賄法に違反して、直接または間接的に、現金、寄付金、その他の行為による違法な賄賂やリベートの提供、支払、影響のある支払い、キックバック、寄付金、その他の支払いを行ってはいない。会社またはその子会社は、反収賄法違反を理由とした政府機関の調査の対象となっていない。

*bribesは、「賄賂」という意味です。
*rebatesは、「リベート」という意味です。
*payoffは、「賄賂」という意味です。何かを行ってくれたことへの対価の支払いという意味を含んでいます。
*political contributionsは、「政治献金」という意味です。

贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)のサンプル6

Neither of the parties hereto or its directors, officers, employees, agents, consultants, subcontractors or outsources shall make any payment or give anything of value to any government official (including any officers or employees of any government department or agency) to influence his/her or its decision, or to gain any other advantage for the parties in connection with the performance of this Agreement.

(訳)本契約書の当事者、その取締役、役員、従業員、エージェント、コンサルタント、下請、外注企業は、外国政府の公務員(政府及び政府機関の役員及び従業員を含むものとする)に対して影響力を行使し、または本契約書の履行に関連して当事者への有利な取り計らいを得ようとして、金銭やその他の経済的価値のあるものを供与することをしてはならない。

*outsourcesは、「外注業者」という意味です。
*governmental officialは、「公務員」という意味です。

贈賄禁止条項(Anti-Bribery条項)のサンプル7

下記のサンプルも、(1)禁止の対象となる行為、(2)禁止の対象となる法令、(3)具体的な禁止行為(贈賄行為)を明示しています。特に贈賄甲については、金銭の授与だけでなく、リベート、報酬、違法な支払、キックバック、違法な政治献金等より詳細に規定がなされています。下記のサンプルでは、FCPAやイギリスの贈収賄防止法の他、日本の刑法(贈収賄に関する規定)、日本の不正競争防止法に言及し、その他の国の贈収賄に関する法令にも違反しないことを求めています。

The Company or any of their respective directors, officers, employees or, to the Company’s Knowledge, agents or any other Person acting on their behalf has not, directly or indirectly, made any bribes, rebates, payoffs, influence payments, kickbacks, illegal payments, illegal political contributions, or other payments, in the form of cash, gifts, or otherwise, or taken any other action, in violation of the Foreign Corrupt Practices Act of 1977 of the United States of America, the UK Bribery Act of 2010, the Criminal Code of Japan, Unfair Competition Prevention Act of Japan or any other anti-bribery or anti-corruption law in other countries (collectively, the “Anti-Bribery Laws”). The Company has not been the subject of any investigation or inquiry by any Governmental Body with respect to potential violations of Anti-Bribery Laws.

(訳)当社又はそれぞれの取締役、役員、従業員、当社の知る限り代理人又はそれらのために行動するその他の者は、直接的又は間接的に、賄賂、リベート、ペイオフ、影響力の支払い、キックバック、違法な支払い、違法な政治献金を行ったことがない。米国 1977 年海外腐敗行為防止法、英国 2010 年贈収賄防止法、日本の刑法、日本の不正競争防止法、その他の国の贈収賄防止法または腐敗防止法(以下総称して「贈収賄防止法」という。)に違反する現金、贈答品等の支払い、またはその他の行為を行っていない。当社は、贈収賄防止法違反の可能性に関して、いかなる政府機関からも調査または照会を受けたことはない。

契約解除条項

贈賄行為は刑法に該当する違法な行為であり、他方当事者からの信用を著しく害する行為です。そこで、相手方当事者が贈賄行為を行った場合には、他方当事者としては直ちに契約を解除し、取引関係を解消できるようにしておく必要があります。下記の例は、当事者の一方が贈賄禁止条項に違反した場合、他方当事者は直ちに契約を解除することができる旨を明らかにしたものです。また、相手方当事者が、贈賄行為を行うことで他方当事者が損害を蒙ることがあります。このような場合、他方当事者としては、贈賄行為を行った当事者に対して損害賠償を請求できるようにしておく必要があります。

If either Party is in violation of the representation/warranty in the previous paragraph, (i) the other Party shall have the right to terminate this Agreement, with immediate effect, upon written notice to the violating Party, and (ii) the violating Party shall indemnify the terminating Party against any damages incurred in connection with such termination.

(訳)もしいずれかの当事者が前項に規定した表明保証に違反した場合、(i)相手方当事者は、違反当事者に対して文書で通知することで、直ちに本契約を解除し、(ii)違反当事者は、解除当事者に対してかかる解除によって生じた一切の損害を賠償するものとする。

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