国際取引における英文契約書の重要性

日本市場の縮小と経済のグローバル化によって、大企業はもちろんのこと、中小企業においても海外との取引を行う機会は増えてきました。また、競争の激しい日本市場にとどまらず、より多くの収益機会を求めてより積極的に海外市場を開拓しようとする経営者も増えてきています。海外の会社を買収したり、外国企業と一緒にジョイントベンチャーを立ち上げることも多く考えられます。
日本国内での取引の場合でも第三者との取引を開始するに際しては基本契約書の締結は当然必要になりますし、状況によっては個別契約書の中でより詳細な取引条件について定めておく必要も出てきます。しかし、海外の企業との取引においては、契約書の作成がより重要な意味を持つことになります。
第1に、法制度や商慣習の異なる企業どうしの取引ですので、どの点について当事者間に合意があるのか不明なことから、契約書に書いていないことについて合意があったと主張するのは極めて困難です。第2に、契約を中心にビジネスを行う欧米においては、契約書の締結がない限り収益の確保はないものと考えているのに対し、契約書の締結があれば相手方もそれを履行し、強い蓋然性に基づき契約書で定められた収益が獲得できると予測しているからです。
つまり契約書こそが収益の源であり、契約書の作成・締結に向けた交渉の中で利益が確定していくと考えることができます。従来から日本企業は、よい製品を売れば当然収益を確保できると考え一生懸命努力してきましたが、良い製品であっても何パーセントのマージンが取得できるのか、保険や運送賃を含め、販売にかかる費用はいくらで、その内どの範囲を自分たちが負担するのかなど契約の最終段階での取決めは収益を決定するにおいて極めて重要な要素となってきます。
私達の仕事の中でも、国際的売買契約において売主と買主がほとんどイーブンの利益をえる契約であったにもかかわらず、為替リスクを抱えた側が会社の存亡にかかわる大きな損失を蒙った一方で、為替リスクを被らない側には継続して収益が生じていた案件もありました。契約書の内容は当該取引における収支への大きな影響があるだけでなく、場合によっては会社の運営全体にも影響を与えるものになります。現在、国際取引におけるほとんどの契約書は英語で作成されていますので、海外取引を行うに当たっては英語の契約書の理解は必須と言えます。
英文契約書の作成

英語での契約書を作成する場合、最初から全部自分で書きおろしをする人はまずいないと思われます。ほとんどの場合が、従前ある契約書の書式の中から自分たちの状況に一致する契約書をサンプルとして、自分たちの特殊な事情を加えるなどして作成します。但し、自分たちが使おうとしている書式が本当に自分たちの状況や取引の内容にふさわしいものかどうかが判明しないことから、結局は自分たちの方で最初のドラフトを行うことをあきらめ、相手方にファーストドラフトを提出してもらうことも多く見受けられます。
秘密保持契約書で双方が秘密保持義務を負う場合など、両当事者の立場がイーブンと考えられる場合にはどちらのファーストドラフトを利用するかでそれほど大きな違いはありませんが、例えばライセンス契約書などでは、ライセンサー(ライセンスを与える側)に有利な書式と、ライセンシー(ライセンスを受ける側)に有利な書式の両方がありますので、全ての場合に相手方にファーストドラフトの作成を依頼するのが好ましいわけではありません。
また、相手方からファーストプロポーザルとして契約書が送られてきた場合、日本企業としては日本企業の要望を反映するようカウンタープロポーザルを提出する必要があります。例えば商品の受け入れ検査を商品到着後3日以内とされていたのを、最低でも1週間は欲しいと考える場合は、比較的容易にカウンタープロポーザルの作成が可能です。しかし品質保証の内容をもう少しはっきり書いてほしいとか、競業避止の範囲を限定してほしいという場合は、御社の考えを正確に文書にし、相手方に提示する必要が出てきます。また、為替リスクをどちらが負担するのか、FOB取引かCIF取引かなど取引の基本的条件について御社の考えと相違がないかもチェックする必要があります。
AIを用いた英文契約書の作成
AIを活用した英文契約書の作成は、近年大きな広がりを見せています。ChatGPTをはじめとする生成AIは公開以降急速に進化を遂げ、文書作成の領域にも積極的に取り入れられるようになってきました。特に英文契約書は、過去の事例や定型的なフォーマットが数多く蓄積されていることから、AIとの親和性が高いといわれています。そのため、短時間でドラフトを用意できることから、大企業だけでなくコストに敏感な中小企業にとっても導入が進んでいます。
もっとも、AIが生成する契約書はあくまで機械的に組み立てられたものであり、必ずしも当事者間の特殊な事情やリスク配分を正確に反映できるわけではありません。条項の不備や解釈の曖昧さが残ったまま契約を締結してしまうと、後に紛争の原因となる危険もあります。特にライセンス契約や国際的な取引契約のようにリスクの所在や負担割合が重要になる場面では、AIの出力結果をそのまま用いることには注意が必要です。
一方で、AIがもたらす効率化やコスト削減の効果は無視できません。従来、英文契約書の作成やレビューには数十万円単位の費用や長い準備期間が必要でしたが、AIを利用すれば短期間でたたき台を準備でき、交渉に臨むまでのスピードを大幅に高めることが可能になります。契約内容の骨格をあらかじめ整えておくことで、専門家に依頼する際の作業も効率化され、結果的に費用の抑制にもつながります。
したがって、安全にAIを活用するためには、AIが生成した契約書を最終成果物としてそのまま使用するのではなく、専門家による確認や修正を経て完成させるプロセスが不可欠です。AIによる効率化と専門家レビューによる精度確保を組み合わせることで、実務に即した英文契約書を適正なコストとスピードで整えることができるようになるといえるでしょう。
