相手国の管轄の裁判所に服することに同意できない場合、日本と相手国のいずれかの裁判所で裁判をするというように記載することも考えられます。上記のノン・エクスクルーシブにすることの一つの方法です。例えば、Any legal action or proceeding arising under this Agreement shall be brought exclusively in the courts located in New Your or Japan.(本契約に基づく全ての訴訟又は手続きについては、ニューヨークまたは日本のいずれかの裁判所に提起されるものとする)という表現になります。
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裁判管轄を日本の裁判所にするためにはどうすればいいですか
目次
外国裁判所を管轄裁判所とする提案を受けた場合
外国の当事者との間で契約書の作成を行う際に、相手方当事者から相手方当事者の国の裁判所を管轄裁判所とする契約案が送られてくることがあります。例えば、日本とアメリカの業務委託契約書を作成しようとしていたところ、ニューヨーク州の裁判所が管轄裁判所とされているような場合です。外国の裁判所が管轄裁判所の場合、仮に相手方当事者から外国の裁判所に対して訴訟提起された場合、日本企業としては、海外まで出向いて訴訟に応訴しなければならないことになります。外国の裁判所で訴訟を追行する場合には、海外まで出向く手間や費用が極めて膨大となり、訴訟の継続自体が困難となる事態も想定されます。また、アメリカなどでは訴訟費用が高騰していますので、ケースによっては数千万円の弁護士費用がかかることもあります。そこで、日本の企業からは、管轄裁判所を日本にするためにはどうすればいいですかという問い合わせを多く受けます。
管轄裁判所に関する合意の有効性
国際私法の原則として、管轄に関する合意は有効であるという原則があります(消費者を保護する必要がある場合など、管轄に関する合意が無効とされる場合もあります)。従って、当事者が管轄に関する合意をした場合は、その合意内容に拘束されることになります。将来裁判所で、そのような合意はなかったとか、実際には別の裁判所で裁判をするつもりであったというような主張をしても認められません。
日本の裁判所を管轄裁判所とするよう相手方を説得すること
日本とアメリカの取引においては、日本の裁判所とアメリカの裁判所のいずれかを管轄裁判所とすることが多いと思われます。当然相手方の国に出向く当事者は不利益を被りますので、自分の国の裁判所で裁判をするよう求めることになります。この場合、取引の内容がより密接に関係しているのは日本であり、日本で裁判を行うことが当事者間の公平にかなうことを主張することが考えられます。日本でサービスの提供を行うのであれば、日本に一番利害関係が強いわけですので、日本の裁判所に管轄を認めるのが公平ですし、証拠もより集まりやすくなり、紛争の早期解決にも資すると考えられます。
日本を管轄とする契約書のドラフトを作成する方法
相手方当事者から契約条項を含めた提案がなされた場合に、その契約条項をベースとして契約条項の修正を行うことが多いと思われます。但し、この方法では、契約交渉の土台となる文案は相手方の提案した契約書のドラフトになりますので、必ずしもすべての項目について貴社に有利になるように変更することはできませんし、いくつかの見落としが生じる可能性もあります。そこで、相手方からのプロポーザルに対してカウンタープロポーザルとして貴社の意見を反映した契約書のドラフトを一から作成し、それを提案するという方法が考えられます。この場合、カウンタープロポーザルの提案の中には、日本を管轄裁判所とするという貴社の意向も含まれることになります。
契約に調印しない方法
管轄に関する合意は、当事者の任意の意思によるものでなければなりません。従って、相手方当事者から提案された管轄に同意できない場合は、管轄に関する記載を削除するよう求め、どうしても削除してもらえない場合は、契約書に調印しないという選択を行わざるを得ないことになります。管轄自体が大きな契約上のリスクになりますので、安易に受け入れるのではなく、そのようなリスクを負えないという場合には契約自体の調印見送りという選択肢も十分に検討しなければなりません。また、このような覚悟で契約交渉を行うことで有利な結果を得ることが出来る可能性もあります。
管轄に関する記載を行わない方法
裁判所の管轄に関する意見が相違し、合意に至らない場合に、管轄に関する記載を削除し、管轄については記載をしないという選択肢もあり得ます。この場合、訴訟については、相手方の所在地の裁判所に訴訟提起するのが原則になります。例えば、日本とアメリカとの間の取引において、紛争が生じた場合、日本企業がアメリカ企業を訴える場合(日本企業が原告)には、被告の所在地であるアメリカにおいて訴訟提起を行う必要があり、反対にアメリカ企業が日本企業を訴える場合(アメリカ企業が原告)には、被告の所在地である日本において訴訟提起を行うのが原則となります。お互いに相手方所在地に出向かなければならないということで、公平な内容になることになります。
ノン・エクスクルーシブにしてもらうこと
管轄に関する記載は、exclusiveの場合と、non-exclusiveの場合があります。Exclusiveの場合は、契約書に記載された裁判所以外での裁判が認められません。例えば、ニューヨーク州の連邦裁判所がエクスクルーシブな管轄裁判所と指定されている場合、ニューヨーク州の連邦裁判所以外の裁判所の管轄権を排除する趣旨であると解釈されます。その結果、ニューヨーク州の連邦裁判所以外の裁判所に提起した訴訟は却下されてしまうことになります。これに対して、non-exclusiveの管轄裁判所の場合、その裁判所に管轄権もあるが、それ以外の管轄権のある裁判所の管轄を排除するものではないと解釈されます。例えば、ニューヨーク州の連邦裁判所の管轄権をnon-exclusiveな管轄裁判所としている場合、ニューヨーク州の連邦裁判所は管轄権を有しますが、それ以外の理由により管轄権のある裁判所の管轄を排除するものではないということになります。例えば、日本の民事訴訟法の規定により、日本の裁判所にも管轄権が認められる場合、アメリカで起こされた裁判の対抗措置として日本の裁判所に対して訴訟提起するということも考えられます。そこで、ニューヨーク州の連邦裁場所を管轄裁判所とする旨の提案がなされた場合に、その管轄権をnon-exclusiveとするよう交渉するということが考えられます。
仲裁や調停に関する記載に改めるよう提案すること
紛争解決の方法としては、裁判所による裁判の他、仲裁(arbitration)や調停(mediation)による方法も考えられます。相手方当事者が裁判所による解決に固執する場合に、カウンタープロポーザルとして仲裁(arbitration)や調停(mediation)による解決方法を提案するということも考えられます。裁判が三審制であり、公開原則が取られるのに対して、仲裁や調停は、一審性であり、非公開とされるなど、当事者にとって都合がいい場合もあります。このような提案を行うことは、管轄に関する意見の相違が埋められない場合に、違った観点からの提案を行うことで、協議を促進させるというメリットもあります。
第三国の裁判所を管轄裁判所とするよう提案すること
例えば、日本とアメリカの取引に関する管轄をアメリカの裁判所とする場合には、日本の当事者にとっては、アメリカの当事者が極めて有利であって、不公平な契約条項であると考えられることになります。反対に、日本の裁判所を管轄裁判所とする場合は、アメリカの当事者にとっては、日本の当事者が極めて有利であって、不公平な契約条項であると考えられることになります。そこで、どちらの当事者にとっても不公平な結果とならないようにするために、第三国の裁判所を管轄裁判所と定める方法もあります。例えば、日本とアメリカにおける契約において、シンガポールの裁判所を管轄裁判所とするような場合です。
他の契約条項との関係で交渉を行うこと
管轄裁判所に関する記載は、重要な一つの要素ではありますが、契約書にはそれ以外の多くの取り決めがなされることになります。そこで、貴社からは、できるだけ多くの提案を行い、他の契約条項について認めてくれるのであれば管轄についての契約条項については譲歩するとしたり、反対に、他の契約条項については譲渡するが、管轄については日本サイドの主張を認めて欲しいなどと交渉することが考えられます。契約は両当事者による互譲によって成立することになりますので、管轄に関する争いだけでなく、複数の検討項目を一覧のような形で協議し、その中の一つの項目として管轄に関する契約条項を交渉するというスタンスを取ることが考えられます。万一仮に管轄に関する譲歩を得られない場合であっても、その他の契約条項において譲歩を得られるというメリットはあります。様々な条件がバーターで取引されることになります。交渉上、どのような戦略を取るべきかについては、弁護士なども交えた検討が必要になります。
管轄条項の対象となる事件の範囲を限定すること
仮に相手国での訴訟を認める管轄条項を承認せざるを得ない場合であっても、あらゆる紛争について相手国の裁判所が専属管轄を有するとするのは適切ではなく、「契約に基づく契約責任については、管轄権を有する」などと相手方所在国での裁判の対象となる事件を限定する方法があります。例えば、管轄に関する条項の対象を契約責任に限定した場合、不法行為に関する請求は、契約責任ではないので、管轄に関する契約条項は適用にならず、不法行為の一般原則に従い、不法行為地又は結果発生地のどちらかで訴訟を提起できるというような余地を残しておくことになります。
両方の国の管轄裁判所を並べて記載すること
相手国の管轄の裁判所に服することに同意できない場合、日本と相手国のいずれかの裁判所で裁判をするというように記載することも考えられます。上記のノン・エクスクルーシブにすることの一つの方法です。例えば、Any legal action or proceeding arising under this Agreement shall be brought exclusively in the courts located in New Your or Japan.(本契約に基づく全ての訴訟又は手続きについては、ニューヨークまたは日本のいずれかの裁判所に提起されるものとする)という表現になります。
執筆者情報
栗林 勉
Tsutomu Kuribayashi
栗林総合法律事務所の代表であり、米国ニューヨーク州の弁護士資格を有する国際弁護士。国内企業法務の他、国際的紛争の解決や国際取引に関する契約書の作成、中小企業の海外進出支援などの業務を幅広く扱っている。
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